秋の日の ヴィオロンのため息の
身に染みて ひたぶるにうら悲し
ヴェルレーヌ「秋の歌」より
(上田敏 翻訳『海潮音』収録「落葉」より)

10月に入りもう1週間が経とうとしていますが、あっという間に秋めいてきて、朝夕はめっきりと冷え込むようになりました。私は朝が早いのですが、いつも通る道で会う人々もどこか寒々しく、ヴェルレーヌの歌のごとく、なんとなくうら悲しい気持ちになるものです。
このヴェルレーヌの「秋の歌」という詩は、日本では堀口大學など多くの詩人や翻訳家が訳していますが、上田敏が「落葉」という題名で翻訳したものが最も知られているのはないでしょうか。また、上田敏がこの翻訳詩を収録した書籍が『海潮音』の題名で出版され、一世紀を超えて、いまだに読み継がれています。
さて、この「海潮音」という言葉ですが、読んで字のごとく海の打ち寄せる潮の響きなのですが、もともとは仏教用語として知られ、お釈迦様の言葉に言い表せない素晴らしい説法に響きを「海潮音」と呼んでいるのです。
この文章を読んでいるおられる人の中には観音様を信仰されておられる方もいるかもしれませんが、『観音経』の中にも「海潮音」という言葉は出てきますので、ご存知の方もおられるかもしれません。
古来中国では、秋を表す言葉として「白秋」と呼んでいました。春は「青春」なので、人生となぞらえて、白秋は中年期(具体的には現代においては50代後半から60代後半とされることが多いと言われています)を表すものに言葉に転じています。そういえば私が、青春真っただ中の中学時代にヒットしていたアイドルの皆さんも、調べてみるとそれぞれにそれぞれの人生の白秋を迎えておられます。人の年齢を見て、いつまでも若いと思っている自分自身の年齢を省みることができます。
さて、一つ、ヴェルレーヌの「秋の歌」のトリビアを紹介しておきましょう。
第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦は、映画「史上最大の作戦」や「プライベート・ライアン」などでも描かれていますし、事実戦史をみれば、この上陸作戦以降、第二次世界大戦(特にヨーロッパ戦線)は終結へと向かい始めるわけです。
この作戦の成功の影には、フランス国内のレジスタンスの活躍があったことを忘れてはならないわけですが、連合国軍のヨーロッパ侵攻作戦をレジスタンスに伝える暗号が、このヴェルレーヌの詩であったと言うことです。
お寺には不釣り合いの映画のワンシーンですね。。。