天人五衰

「それも心心ですさかい」
三島由紀夫『「豊饒の海」第四巻「天人五衰」』

なかなかブログ更新が出来ず過去のお話になってしまうのですが、4月8日は「仏生会」、花祭りともいいます。つまりお釈迦様のお誕生日でした。当山においてもコロナ禍のためごくわずかな人数でしたがお祭りをさせていただきました。

お釈迦様のご紹介については様々な書籍やインターネットでも書かれていますので詳しくはこちらでは書きませんが、ルンビニという場所で釈迦族の王、浄飯王のお妃、摩耶夫人よりお生まれになりました。

35歳で成道され、80歳で涅槃にはいられるまでの間、各地を旅し多くの弟子や、貧しい人、病める人、身分の高い人、身分の低い、分け隔てなく、尊い教えを説かれ続けられました。

そして現代の私たちの心に残る多くの言葉を残してくださいました。

お釈迦様の時代、80歳といえばおそらくかなりのご高齢と思いますが、現在の日本における平均寿命は女性で85歳を超え男性でも80歳を超えています。

近頃は「人生100年時代」と言われますが、100年が長いものなのか短いものなのか、それは人それぞれの考え方次第だと思います。しかし私自身はたとえ人生が80年であろうと100年であろうといざ死の床にある時、人生を振り返れば「あっという間だったなぁ」と思うのではないかと常々考えています。

輪廻の考え方では「六道」に生まれ変わると言われます。その一番上位にあるものが、天人の世界「天界」です。しかし天人ですら死ぬ時がやってくると言われています。その前兆となるのが五つの衰えだと言われ、それが「天人五衰」と言われるものです。三島由紀夫の絶筆小説『天人五衰』はまさにこの言葉から撮られたものです。

この小説は、『豊饒の海』と言う輪廻転生を扱った長編小説の最終巻になりますが、その長い長い輪廻を見てきた主人公が人生の最後に年老いたかつての姫君であられるその輪廻のカギを握る尼僧から、「ただあなたが思っていただけで何もなかったのではないか」と問われ、茫然自失する場面で幕を閉じます。

寺山修司は「過去と言うものは自分の都合の良いように記憶が書き換えられているのだ」といった言葉を残しています。今元気でいる私ですら、小さい頃の思い出は鮮やかに思い出されるのですが、果たして本当にそれが事実だったのかどうかと改めて問われると、自信がなくなります。

ただ願うものは、充実した毎日を送り、感謝の気持ちを忘れず、自らが死の床にあるとき「ああ、良い人生を送らせていただいた」そう思いたいものです。

『天人五衰』の月修寺のモデルとなった奈良・円照寺