桜と愛別離苦

はなにあらしのたとえもあるぞ
「サヨナラ」だけが人生だ
井伏鱒二

早くも4月に入り、当山の桜の木も満開になってしばらく経ちました。

満開の桜を見ていると、冒頭に挙げた井伏鱒二の言葉が浮かびます。

私は、この言葉を寺山修司のオリジナルだと思っていましたが、調べてみると井伏鱒二が漢詩を和訳したものでした。

唐代の、于武陵(うぶりょう)の五言絶句を井伏鱒二はユーモアあふれる翻訳をしています。

勧酒
君に勧む 金屈巵(きんくつし)
満酌 辞するを須(もち)いず
花発けば 風雨多し
人生 別離足たる

この翻訳にあたっては、井伏鱒二の前で林芙美子が語った言葉

「人生ってさよならだらけね」

からインスピレーションを得たと言われていますが、それにしても何も照れくさい中には、「格好をつけた」言葉は心に残ります。

仏教の教えでも

愛別離苦(あいべつりく)

という苦しみを人間は背負っています。

これは、愛する人とも必ず別れる日がやってくるという真理を表したものです。

今年の桜もやがて散る日がやってきます。

咲く花も美しいが、散る花もまた美しい。これも日本の人らしい情緒だと思います。

ちなみに、この井伏鱒二の訳詩は『厄除け詩集』という詩集に収録されています。

このコロナ禍、第4波。本を片手に静かな山寺の桜の下で「厄除読書」をしてみるのも良いかもしれません。

桜並木と瀬戸内海